今回は「竜の学校は山の上」を紹介します。
ダンジョン飯で知られる大ヒット作家の九井諒子先生が2011年に出した短編集ですね。九井先生は短編集をいくつか出しているんですが、どれもかなり面白いです。
ダンジョン飯もそうなんですが、画力で読ませるのではなくアイデアで読ませる作品です。秀逸なワンアイデアで一つのストーリーを深堀りするのが上手い人だなと思います。
タイトル:竜の学校は山の上
著者 :九井諒子
出版社:イースト・プレス社
目次
「竜の学校は山の上」のあらすじ
舞台は竜が実在する世界。この春高校を卒業した東は、地元で竜を使った配送業を営むことを夢見て、宇ノ宮大学の竜学部に進学した。入学式の当日、新入生で沸くキャンパスで、竜研究会というサークルの部長が突然演説を始める。「残念ながら現在の日本に竜の需要は全くありません」と。その演説に思うところがあった東は竜研究会を尋ね、成り行きで研究会のメンバーになる…。
表題の「竜の学校は山の上」に加え、全9編からなる短編集。
感想
上にも書いたんですが、ワンアイデアで一つのストーリーを深堀りするのが上手い人です。個人的にお気に入りの話は「現代神話」です。この話は人間とケンタウロスが共存する世界を描いている話ですね。
引用元:九井諒子「竜の学校は山の上」(イースト・プレス社)
話の根幹をなすアイデアは「人間とケンタウロスが共生していたら?」というシンプルかつ非現実的なものなんですが、そこからアイデアを派生させて現実感のあるストーリーに落とし込んでいるのはさすがです。
(注:作中ではケンタウロスのことを馬人と言っていますが、ケンタウロスと言うことにします)。
冒頭は人間の男性とケンタウロスの女性の夫婦の話なんですが、その2人によって描かれる「人間とケンタウロスの夫婦あるある」の納得感がすごいですね。確かにケンタウロスと結婚したらこうなるわ、と腑に落ちます。
まあこの夫婦の話はコーヒーブレイクのようなもので、「現代神話」のストーリーの主軸は人間の女性とケンタウロスの男性の働き方にあります。
主人公はケンタウロスの割合が多い会社に勤めるOLの人間で、ケンタウロスとの働き方の違いに悩みます。そんな彼女に付き添うケンタウロスの男性があれやこれやボケてストーリーが進んでいく、という感じですね。
ここでも久井先生の「もしケンタウロスと一緒に働いていたら」という想像が発揮されるわけですが、やはり納得感が際立ちます。ケンタウロスがいると起こり得そうな社会問題を上手く表現していると思いますね。
多分久井先生はケンタウロスと生活していたことがあるんだと思います。そう思える程度には現実的で具体的なストーリー構成です。ケンタウロスという存在は全く非現実的なんですが。
物語としては、人間とケンタウロスの数ある関係の中から今回はこの2人に焦点を当てました、って感じなので、人間とケンタウロスの間の社会問題が解決されるとかそんなストーリーではありません。「もしケンタウロスがいたら」という世界を第三者として覗いている感じです。
表題の「竜の学校は山の上」も同じように、「もし竜が存在していたら?」という非現実的な仮定を現実感のあるストーリーに落とし込んでいる話です。
竜が登場するフィクションって、竜を狩るとか竜に乗って戦うとかそんなんばっかだと思うんですが、この話では主人公が大学の竜学部に進学するんですよね。「大学に竜学部がある」って描写、ものすごく現実感があると思いません?(もしかしてそう思うのは自分だけ?)。
ストーリーの中に謎とか目標があるわけでは無いんですが、その妙な現実感に引き込まれて読み進めて行ってしまう、そんな短編集です。
最後に
という訳で「竜の学校は山の上」の感想でした。
久井先生の描く話は全部面白いので他の短編集の感想もそのうち書こうと思います。