今までの様々なSF作品の影響のおかげで、タイムマシンという物の概念は世間的に受け入れられている。
しかしタイムマシンが実在する、これから発明されると考えている人は少ない。タイムマシンが発明されるなら、未来人が来ているはずだろうと。
今回は量子消しゴム実験について紹介する。この実験について知ると、タイムマシンはできなくとも、未来の結果によって過去を書き換えることはできるかも、と思えるかもしれない。
目次
量子とは何か
「量子消しゴム実験」について説明するには、まず「量子とは何か?」について説明しなければならない。
量子とは波と粒子の性質を併せ持ったものだ。その性質を確かめられる代表的な実験が二重スリット実験だ。
照射した光を2つのスリットに通すと、2つに分かれた光が干渉し合い、スクリーンに縞模様を作るという実験だ。この干渉は波に特有な性質なので、光は波と言える。
この縞模様は照射する光を光子1個のみに絞っても現れる。光子1個を発射してもスクリーンには光子1個分の跡しかつかないが、何度も繰り返して発射することで縞模様ができる。
これは光子が、その存在を観測するまでは"存在確率の雲"として存在しているためだ。両方のスリットを"雲"が通過するため、その雲同士が干渉することで縞模様を作るというわけだ。
この縞模様を消すには、光子を観測して"存在確率の雲"の状態を確定させてやれば良い。
例えばスリットに監視カメラを設置し光子を観測してやれば、そこで波動関数が収縮し光子の位置が定まる。
すると光子と干渉するものがなくなってしまう。そのためスクリーン上から縞模様は消える。観測することで光子を粒子として振る舞わせたとも言える。
上記の2つをまとめると光子は波としても粒子としても振る舞うと解釈できる。
量子消しゴム実験の原理
では本題の量子消しゴム実験の内容について説明する。「消しゴム」というワードが入っていると、消しゴムを使ったお手軽実験のように思えるが、実際にはそうではない。
この実験について記載された論文のタイトルが「A Delayed Choice Quantum Eraser」であり、これを直訳した結果、量子消しゴム実験となったのだろう。Eraserが消しゴムを意味する単語だ。
本来は量子消去実験などと訳すべきだろうが、消しゴムという日常的なものと、量子という非日常的なものが組み合わさるとインパクトがあるため、このように訳したのだろう。
基本的な実験内容は二重スリット実験と変わらない。ただ、光子の行く先が少々複雑になっている。
図中のBBOはメタホウ酸バリウムという結晶で、通過した光子を半分のエネルギーを持つ2個の光子に分けるという性質がある。
BSと表記されているものはビームスプリッターで、50%の確率で光子を透過し、50%の確率で光子を反射する。
さて、なぜこのような複雑な構造をしているかというと、光子が二重スリットを通った後に、実際はスリットのどちらを通っていたのか確かめるためだ。
例えばBBOで2つに分かれた光子のうち、片方の光子をD3で検出した場合、スリットの下側を通ったのだと特定できる。
ただし、D2で光子を検出した場合、話は変わってくる。この場合はD2に至る経路が複数あるため、光子がスリットのどちらを通ったのかは特定できない。
このように、光子がスリットのどちらを通ったのか、特定可能・特定不可な経路を意図的に作った上で実験を行う。
実験の結果
二重スリット自体には何も細工はしていないので「実験結果に差は出ないのではないか?」と思えるが、実際は面白い結果になる。
まず、D3で光子を検出した場合のデータのみを抽出すると、D0にあるスクリーンから縞模様は消えてしまう。
しかし、D2で光子を検出した場合のデータのみを抽出すると、縞模様が現れる。
二重スリットに細工をせずとも、このような差が出るのは不思議に思えるかもしれないが、量子力学的に考えれば普通のことだ。
D3に着いた光子は下のスリットを通ったと分かるようにしてある。これは「光子がどちらを通ったのか観測した」ということと同じだとも考えられる。
反対に、D2に着いた光子はどちらのスリットを通ったか分からないようにしてある。これは「光子がどちらを通ったのか観測しなかった」ということと同じだとも考えられる。
D3の実験結果は、光子がどちらを通ったのか観測したのだから、その時点で波動関数が収縮してしまい、縞模様が消えてしったのだろう。
ただ、疑問が1つ残る。光子を観測したのは二重スリットを通った後だ。この後観測されるか否かを、光子はどうやって知ったのだろうか?
実験結果の解釈
この解釈については意見が分かれているようだ。
まずは「未来の結果によって過去が改変された」説。光子がスリットを通って観測された後、その結果に合わせて過去が書き換わったのだ。
こう考えるとタイムマシンが可能に思えてくるが、この解釈はオカルトの範疇と言っていいだろう。夢がある説ではあるのだが…。
次に「縞模様が消えたとするのが間違い」説。冷静に考えるとこちらの説の方が正しいと思える。
実験結果の説明の際には縞模様が消えると表現したが、実際は縞模様は消えていないのかもしれない。位相の異なる2つの縞模様が重なっているということだ。
これならば、縞模様が消えたように見えるのも頷ける。
最後に
個人的には量子力学には神秘的な学問でいてもらいたいので「未来の結果によって過去が改変された」説には頑張ってもらいたい。
まあそう考えると色々と辻褄が合わなくなるので敗色濃厚ではあるが。