物理 素粒子系

神が作った法則は1つだけ -超弦理論 前編-

2020年12月30日

今から400年ほど前の人々は、地上と天空は違う物理法則で支配されていると信じていた。天空の星々を神々に見立て神話を紡いた時代には、当たり前のことだったかも知れない。それを覆したのがアイザック・ニュートンだ。

彼は地上でリンゴが木から落ちることと天空の星々の軌道が、どちらも万有引力の法則で説明できることを発見した。別々の法則で支配されていると信じられていたものを、万有引力という共通の法則で統一したのだ。

現在の物理学者もニュートンのように自然界の様々な法則を統一すべく日夜研究に明け暮れている。その中でも超弦理論は自然界の法則を統一する究極的な理論として日々研究が進んでいる。今回はその超弦理論について話そうと思う。

 

目次

 

統一理論の必要性

ニュートンが地上と天空の法則を統一したように、現代の物理学者も自然法則を統一しようとしている。現代の目下の課題は、アインシュタインの提唱した一般相対性理論と量子力学を統一して説明できる理論の構築だ。

ただ、まず疑問に浮かぶのが「なぜ自然法則を統一する必要があるのか?」ということだ。これについては様々な意見があるので、以下に筆者の私見を述べる。

まず、統一する必要があるのかどうかと言われると、必ずすべきとまでは言い切れない。ただ、基礎的な理論を進めておけば、後々実生活に応用が効くようになり役立つかもしれない。ただし、どのように応用されるのかを見通すことは難しい。

例えば遺伝学に大いに貢献した人物にメンデルがいる。彼はエンドウマメを観察しメンデルの法則という遺伝法則を発見するに至った。その後遺伝学は発展し、今では遺伝子操作によって親が望む形質を持つ子供(いわゆるデザイナーベビー)の実現まで秒読み、という所まで発展している。はたしてメンデルは遺伝学がここまでこぎつけることを見通していただろうか。答えは否だろう。自分の成果がその後どのように発展し、どのような未来をもたらすかを見通すことは困難なのだ。

まあとにかく、どのような学問でもやらないよりはやっておくに越したことはないということだ。

次に、多くの物理学者は必要性に駆られ自然法則を統一しようとしているわけではない。彼らの多くが純粋な科学的興味から研究を行っているはずだ。世の中の役に立つかどうかを研究のモチベーションにしている理論物理学者など(特に素粒子系では)いないのではないだろうか。

要するに、「なぜ自然法則を統一する必要があるのか?」という問いに対する答えは、「世の中の役に立つかどうか分からないので、将来的に必要無いという結論になるかも知れないが、多くの学者は純粋な科学的興味から研究を続けている」というものになる。

(こう書くと「役に立つかどうかも分からんことを好きに研究してお金もらうなんて…」という意見が出てきそうだが、一大学問として名を馳せた錬金術のように、多くの人力と資金が割かれたが結局廃れた学問もある。その逆で、役に立つわけがないと後ろ指を差された学問が、後に役に立つこともあった。その積み重ねが今の科学技術だということを忘れてはならない。)

そして今多くの物理学者の興味を引いているのが超弦理論だ。超弦理論の最終目的は相対性理論と量子力学を統一し、個々に分けられた物理法則をその身1つで統一して説明することである。

 

特殊相対性理論が解決した矛盾

1905年にアインシュタインがある理論を提唱する。かの有名な特殊相対性理論だ。特殊相対性理論は時空間に関する理論で、光速度不変の定理を出発点とすると、速度に寄って時間の感じ方が異なる、空間の伸び縮みが現れる、などの日常生活からは想像もできない結論が導かれる。

この特殊相対性理論は力学と電磁気学の矛盾を解決したと言っても良い。電磁気学からは、光速度は不変で常に一定値という結果がはじき出される。しかしその結果は、力学という学問から見るとおかしな結果なのだ。

例えば、時速60kmで走る車の横を同じ時速60kmで走れば、その車は停まっているように見える。相対速度というものだ。車のメーターが時速60kmを指し示していたとしても、その値は主観でしかなく、見るものによって速度の値なんていくらにでも変わりうる。

しかし、電磁気学によれば、光に相対速度なんてものはなく、常に一定値ということらしい。それはマクスウェルという物理学者によって導かれた。マクスウェルは、アインシュタインが特殊相対性理論を提唱する半世紀ほど前、1864年にそれまでの電磁気学の成果を整理し、マクスウェル方程式という式を提唱した。

 

<マクスウェル方程式>

$$\boldsymbol{∇}\cdot\boldsymbol{D}=ρ$$

$$\boldsymbol{∇}\cdot\boldsymbol{B}=0$$

$$\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{H}-\frac{∂\boldsymbol{D}}{∂t}=j$$

$$\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{E}+\frac{∂\boldsymbol{B}}{∂t}=0$$

 

この式から光速を導くことができる。具体的な手順は以下に示す。

 

光速の導出

マクスウェル方程式の4つ目の式を使う。

$$\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{E}+\frac{∂\boldsymbol{B}}{∂t}=0$$

\(\boldsymbol{B}\)の項を移行して両辺にRotationをかける。

$$\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{E}=-\frac{∂}{∂t}(\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{B})$$

\(\boldsymbol{B}=μ_0\boldsymbol{H}\)を代入し整理すると

$$\boldsymbol{∇}^2\boldsymbol{E}=μ_0\frac{∂}{∂t}(\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{H})$$

真空だと仮定(\(j=0\))し、マクスウェル方程式の3つ目の式\(\boldsymbol{∇}×\boldsymbol{H}-\frac{∂\boldsymbol{D}}{∂t}=j\)を用いると

$$\boldsymbol{∇}^2\boldsymbol{E}=μ_0\frac{∂^2\boldsymbol{D}}{∂t^2}$$

\(\boldsymbol{E}=ε_0\boldsymbol{D}\)なので

$$\boldsymbol{∇}^2\boldsymbol{E}=μ_0ε_0\frac{∂^2\boldsymbol{E}}{∂t^2}$$

この式を波動方程式と呼ぶ。係数\(μ_0ε_0\)は波動の速度を表している。

$$v=\frac{1}{\sqrt{μ_0ε_0}}$$

真空中の透磁率と誘電率の値を代入してやると\(v=30\)万[km/sec]という値が得られる。

 

かくして、電磁気学が示す「光速は30万km/secで一定」という結論と、力学が示す「物体の速度は観測者によって変わる」という結論が矛盾することになってしまった。この矛盾をアインシュタインは「光速度は誰から見ても変わらない」として解決した

その10年後、この特殊相対性理論を発展させた理論をアインシュタインは提唱する。それが一般相対性理論だ。一般相対性理論は特殊相対性理論に重力を盛り込んで発展させた理論だ。その中でアインシュタインはアインシュタイン方程式と呼ばれる式を提示している。この方程式を様々な条件下で解くことで、ブラックホールや宇宙が膨張していることを解として導出することができる。

しかし1つ問題が起こった。この一般相対性理論と量子力学が矛盾してしまうのだ。

 

一般相対性理論と量子力学の矛盾

量子力学では粒子を点として扱う。点とは「位置をもつが部分をもたないもの」と定義されている。座標等によってどこにあるかは指定できるが、大きさはないというちょっと不思議なものだ。この"点"が重力を扱う上でやっかいなものになる。

一般相対性理論では重力を扱う。重力は物体間の距離の二乗に反比例する力だ。例えば万有引力は以下のように表される。

$$F=G\frac{Mm}{r^2}$$

式から分かる通り、物体間の距離が近ければ、つまり\(r→0\)であれば力の大きさは強くなる。\(r=0\)の場合は無限大に発散してしまうが、現実世界で物体間の距離が0になることは無いので、問題になることは無い。

しかし、量子力学の世界では量子を"点"として扱うため、この無限大が頻繁に発生してしまう。無限大の重力なんて有り得ない。一般相対性理論の破綻だ。

この無限大問題を解決するために、量子を大きさの無い点ではなく弦の振動として表すということを考えついた人たちがいた。ノーベル賞を受賞した南部陽一郎もその1人である。彼らはどのような理論を考え出したのだろうか?

予想外に長くなってしまったので、その続きについては次回書こうと思う。

↓続き

神が作った法則は1つだけ -超弦理論 後編-

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