東の雄である東京大学と対をなすものと言えば、西の雄である京都大学だろう。両者は日本の最難関大学でそこで出題される入試問題も当然最難のものである。
東京大学の問題は純粋に最難レベルの知識・読解力が問われるのに対し、京都大学はそこに多少の奇抜さが入った問題が出題されるという印象だ。
今回はその京都大学の入試問題の中でも奇抜さで目を見張る問題である、史上最短の入試問題について紹介しようと思う。
目次
京都大学の数学
京都大学は日本で2番目に難しい大学だ。各予備校の出す偏差値ランキングでは東京大学の次に付けており(もちろん学部による差もあるが)、世界大学ランキングでも国内2位の座を不動のものにしている。
当然その入試問題も日本最難関レベルであるが、東京大学と比較すると、時折奇抜な問題が出題されることがある。例えば有名なのが1995年に出題された以下の問題である。
自然数\(n\)の関数\(f(n),g(n)\)を
$$f(n)=nを7で割った余り$$
$$g(n)=3f\Biggl(\sum_{k=1}^{7}k^n\Biggl)$$
によって定める。
(1) すべての自然数\(n\)に対して\(f(n^7)=f(n)\)を示せ。
(2) あなたの好きな自然数\(n\)を一つ決めて\(g(n)\)を求めよ。
その\(g(n)\)の値をこの設問(2)におけるあなたの得点とする。
引用元:1995年京都大学後期試験
「その\(g(n)\)の値をこの設問(2)におけるあなたの得点とする。」という文章が目を引く。真面目さしか許されない受験において、最大限のユーモアを織り込んだ結果この文章になったのだろう。
自分の得点を自分で決められるのだから、適当に数字を代入していき、ある程度大きい数字が得られた時点で解答を終えれば良いと思うだろう。しかしそのような浅い思考では上手くいかないのがこの問題。勘の良い人はお気付きと思うが、この問題はある値以外を代入すると\(g(n)\)の値が0になってしまう。それでは得られる得点が0で、無回答と変わらない。
要するに、問題文では自分の得点を自分で決められると謳っておきながら、実際は「\(g(n)\)の値が0以外となる\(n\)の値を求めよ」と問うているわけだ。作問のセンスが一線を画している。
解答する時は\(n=1\)から根気よく代入して計算しても良いのだが、それだと\(n=5\)で出てくる五乗の数を計算するところで挫折するのがオチだろう。答えとなる数字はその次に現れる。6の倍数のときのみ\(g(n)\)の値が18となり、それ以外のときは0になるのだ。だからこの問題では「\(g(6)=18\)なので18点もらいます」と書けば良い。
鋭い受験生は「\(f(n)\)の最大値は6だから、\(n=6\)のときが最大で18点もらえるのでは?」とすぐ気付く(そもそもそれに気付かせるために(1)が存在する)ので、余計な計算をせずに18点もらえる問題にもなっており、センスのある受験生とない受験生の間で差を生んだだろう。そういう意味では、奇抜さが目立つ問題でありながら、入学者選抜という意味では良問だったとも言える。
このような奇抜さを見せる京都大学数学問題の1つに「\(\tan1°\)は有理数か。」がある。
「\(\tan1°\)は有理数か。」
\(\tan1°\)は有理数か。
引用元:2006年京都大学後期試験
あらゆる無駄を削ぎ落とした問題文だ。僅か10文字で日本最高峰の大学受験生を選別する問題が作れるということに驚きを覚える。
\(\tan\)(tangent)の定義は「単位円上のある1点と原点を結ぶ直線の傾き」だ。
有理数は「分数で表せる数」のことだ。
例えば0.5という数は\(\frac{1}{2}\)という分数で表せるので有理数だ。0.333…という無限に続く小数でも\(\frac{1}{3}\)という分数で表せるので有理数となる。
有理数とは逆に「分数で表せない数」のことを無理数と呼ぶ。例えば\(\sqrt{2}\)は分数で表せないため無理数だ。
要するにこの問題文は「\(\tan1°\)は分数で表せる数なのか考えてください」という意味だ。では実際に解いてみよう。
解いてみる
京都大学の問題なので解答が長文に渡るかと思うかもしれないが、背理法を使えば意外とあっさり解ける。ポイントは以下の通りだ。
- 感覚的に\(\tan1°\)は無理数だろうと当たりを付けること
- \(\tan1°\)の数値が分からないので、\(\tan60°\)などの既知の値で表す方法を考えること
[解答]
\(\tan1°\)が有理数と仮定する。
\(\tan\)の倍角の公式より
$$\tan2α=\frac{2\tanα}{1-\tan^2α}$$
であるので、\(\tan1°\)が有理数ならば\(\tan2°\)も有理数である。
同様にして\(\tan4°,\tan64°\)も有理数であると言える。
\(\tan\)の加法定理より
$$\tan(α-β)=\frac{\tanα-\tanβ}{1+\tanα\tanβ}$$
よって
$$\tan(64°-4°)=\frac{\tan64°-\tan4°}{1+\tan64°\tan4°}$$
であるので、\(\tan(64°-4°)=\tan60°\)は有理数である。
これは\(\tan60°=\sqrt{3}\)であり無理数であることと矛盾する。
よって\(\tan1°\)は無理数である。
最後に
というわけで今回は「史上最短の入試問題」を解いてみた。証明自体は簡易的に終わるのだが、問題文から得られる情報量の少なさに当時の受験生は四苦八苦したことだろう。