プロ野球

UZRとは?ゴールデングラブ賞とUZR

2020年12月22日

野球場

先日2020年のゴールデングラブ賞が発表された。個人的には概ね期待通りの選出だったが、やはり一部疑問に感じる選出もあった。

今回はゴールデングラブ賞と守備指標であるUZRを絡めて話していこうと思う。

目次

 

 

ゴールデングラブ賞とは

ゴールデングラブ賞は守備によってチームに貢献した選手を表彰する賞だ。選考対象は以下の通り。

  • 投手は規定投球回数以上投球していること、又はチーム試合数の1/3以上登板していること
  • 捕手はチーム試合数の1/2以上捕手として出場していること
  • 内野手はチーム試合数の1/2以上1ポジションの守備についていること
  • 外野手はチーム試合数の1/2以上外野手として出場していること

引用元:三井ゴールデングラブ賞概要

2020年は全120試合制であったため、野手については60試合出場が下限となる。選考するのはプロ野球を担当する記者であり、無記名投票により行われる。

 

守備の評価方法

守備の評価において一番分かりやすい項目は守備イニングとエラー数だ。多くのイニングを守っているのに対し、エラー数が少なければそれだけ守備が上手いと言える。2020年シーズンでは、広島の菊地選手が106試合に出場し無失策という偉大な記録を達成した。元々セカンドの名手と呼ばれている選手ではあったが、改めてその守備の上手さを実感するシーズンだった。

数値にすることは難しいが、ファインプレーの多さも守備の上手さを語る上で外せないだろう。内野を抜けそうになるボールにギリギリで食らいつきセーフにする。そのようなプレーに球場は沸き立つ。

ただ、このファインプレーの有無については少し怪しいところがある。例えば、守備範囲の狭い選手が打球をダイビングキャッチしてアウトにした場面があったとする。仮に守備範囲が広い選手が守っていたなら、ダイビングキャッチなどする必要なく、正面でボールを取りアウトにできていたのではないか?と考えられるからだ。前者のプレーはファインプレーとして語られるが、後者のプレーは普通のプレーの1つとして取り上げられるに過ぎないだろう。大げさなことを言えば、前者の選手はファインプレーが代名詞として取り上げられ、守備の名手として語られる一方、後者の選手は守備の名手として挙げられない可能性もある。

上記のような印象による守備評価が行われないよう、定量的に守備評価を行うために考案されたのがUZRである。

「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」を表す。

引用元:Wikipedia「アルティメット・ゾーン・レーティング」

UZRはUltimate Zone Ratingの略であり、グラウンドを多数のゾーンに分割しそのゾーンで記録されたアウトを記録・分析することで、野手のプレーを評価するという手法だ(詳細な説明はWikiを見て頂ければと思う)。

例えば外野手であれば「RNG」「ERR」「AMR」、内野手であれば「RNG」「ERR」「DPR」という、それぞれ3つの項目で評価される。各項目の意味は以下だ。

RNG 打球処理による貢献度。要は守備範囲の広さの指標である。
ERR 失策抑止による貢献度。要はエラーの数を指標化したものである。
AMR 外野手の送球による貢献度。どれだけ進塁を阻止したか、捕殺したかという指標である。
DPR 内野手の併殺完成による貢献度。そのまま、どれだけダブルプレーを完成させたかという指標である。

これらの項目を合算しUZRを計算する。上記の通り、UZRは平均的な選手と比較した際の相対指標なので、平均的な守備力の選手のUZRは0.0となる。10.0を超えると名手、15.0を超えると球界トップクラスの名手という印象だ。

守備の花形であるショートを守った選手の値を例として出そう(各値はDELTA様が公開している2020年度のデータを参照した)。筆者がパ・リーグファンなのでパ・リーグの選手について記載する。

選手名

(敬称略)

RNG

(範囲)

ERR

(エラー)

DPR

(併殺)

UZR UZR

(1000回)

源田壮亮 9.0 1.3 7.7 18.0 17.4
小深田大翔 0.1 -0.2 -3.6 -3.7 -5.2
藤岡裕大 -5.6 0.1 -1.3 -6.9 -7.7

UZRは積算指標(試合に出れば出るほど数値が上がる、または下がる)なので、1000イニング当たりに換算し比較することが多い。1000イニングあたりのUZRを見てみると、源田選手の守備力が圧倒的であることが分かる。

各項目に目をやると、源田選手のRNGは9.0で圧倒的な守備範囲を誇っていることが分かる。また併殺完成を表すDPRについても7.7と他を大きく引き離している。

この結果を見ると「小深田選手や藤岡選手って守備があんまり上手くないんだな」と思ってしまいそうだが、上にも書いたとおりUZRは相対指標であり、絶対的な守備の上手さを表すわけではない。「この選手はUZRがマイナスだから下手だ」というような議論は無意味である。

上記の例の場合、源田選手の守備が圧倒的過ぎるせいで他の選手の値が相対的に低くなってしまっていると感じられる。あくまで筆者の個人的な感想だが、普段パ・リーグの試合を見ていて小深田選手や藤岡選手の守備に難があると感じたことは無い(そもそもプロでショートをやれている時点で守備が上手くない訳が無いことは想像に難くない)。

今後も源田選手と比較され指標を弾き出される選手は苦労することだろう。

 

UZRと噛み合わない受賞

上記の通りUZRは相対指標であるので、一番UZRの良い選手がゴールデングラブ賞を受賞すべきと思えそうだ。だが実際その通りになっていないものもいくつかある。例えばパ・リーグの外野手部門を見てみよう。ゴールデングラブ賞受賞者には★マークを付けている。

選手名

(敬称略)

RNG

(範囲)

ERR

(エラー)

ARM

(送球)

UZR UZR

(1000回)

★柳田悠岐(C) 4.6 -0.4 -0.7 3.5 4.0
★大田泰示(R) 11.9 0.5 3.7 16.1 17.1
★西川遥輝(C) -8.2 -0.4 -3.8 -12.4 -14.9
島内宏明(L) 7.5 0.4 0.0 7.8 10.5
金子侑司(C) 4.7 0.3 -2.6 2.4 3.3

UZRに着目すると分かる通り、西川選手の受賞に疑問符がつく。俊足で守備範囲の広いイメージがある西川選手だが、今年は他の指標だけでなく守備範囲も苦しく、UZR-14.9という大幅なマイナスを記録してしまった。

(西川選手は元々肩が強くなく、浅いフライでバレンティン選手にタッチアップされてしまうシーンも今季あった。また、日本ハムの本拠地である札幌ドームは外野がペラペラな人工芝でできていることで有名であり、外野守備時の身体的負担が大きい。そこで長年プレーしてきた影響が出てしまっただろうか)

それと比較すると楽天の島内選手のUZRは優れており、指標上はゴールデングラブ賞を受賞しても良い成績であった。

誤解なきよう書いておくが、ここでしたいのは西川選手への批判ではない(なんなら筆者は北海道出身でゴリゴリのファイターズファンである)。指標上圧倒的なマイナスを出してもゴールデングラブ賞を獲得できてしまうわけだ。そうなると、ゴールデングラブ賞の選出方法はこのままで良いのだろうか?と思わざるを得ない。

上記のような例はこれだけではない。例えば阪神の近本選手は1000イニングあたりのUZR19.4とものすごい値を叩き出していたが、ゴールデングラブ賞には選出されなかった。もちろん試合を思い返すと、前衛的な守備でボールを後ろに逸らしてしまったシーンなどが浮かぶが、あくまでそれはイメージでしかない。感情の入り混じらないUZRという定量的指標は、彼が名手であることを示しているわけだ。

 

UZRのみで判断することの危険性

とまあUZRを交えて守備についてあれこれ書いてきたわけだが、UZRで守備を評価することが必ずしも正確なわけではないことも最後に書いておく(UZRを使って守備について話した手前、掌返しっぽくなってしまうが…)。

先にも書いたとおり、UZRは相対指標であるので絶対的な守備の上手さを表すわけではない。UZRマイナスの選手の守備が必ずしも下手であるとは言えない。年によって比較する対象が異なるので、ある選手のある年のUZRと別の年のUZRを比べ「この年の方がUZRが高いから、このときの方が守備が上手い」というような評価も無意味だ。

また、UZRは守備をできるだけ定量的に評価した指標ではあるが、完璧に定量的であるとも言えない。

例えば球場ごとの広さの差は加味していない。狭い球場の方が外野守備はしやすくUZR(RNGの項目)は上がりやすいはずだが、そのような差は考慮されない。ホームランテラスのある球場は、守備指標上有利に働くはずだ。同様に、球場が屋外か屋内かの差も考慮されない。イレギュラーな風が吹くこともある屋外球場は、外野選手の守備指標上不利に働くだろう。

また、内野守備についてはDPRという併殺についての項目があるため、他の内野選手の守備力にもUZRが影響される。特に二遊間はこの影響が大きくなるだろう。悪い言い方になってしまうが、相方の守備力の低さに引っ張られ、自身のUZRが低下することもあるわけだ。

 

最後に

まとめると

  • UZRは守備を定量的に評価した指標
  • UZRが低くてもゴールデングラブ賞を受賞できる場合があり、選出方法に疑問を感じる
  • ただUZRが完璧な指標であるわけではなく、これだけで判断するのも良くない

 

個人的には投票を記名制にするとかして責任を持たせてほしいですね。UZRは完璧ではないですが、今年の西川選手の受賞は無いかな…(念の為もう1回書きますが、筆者はファイターズファンで西川選手を扱き下ろすことが目的ではないです)。

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