数学

虚数は実在するか

2020年12月20日

初めて虚数に出会ったのは中学生の時だった。数学の授業で累乗を教えられる際に、先生が「このように二乗すると全ての数はプラスになるが、二乗して-1になる数を仮定して理論を進めることがある」というようなことを言っていたのを覚えている。「こんな数有り得ないが、宇宙の謎を解く方程式に出てくるらしい」とも先生は言っていた。

今回はそんな有り得ない数である虚数について書こうと思う。

動画(ゆっくり解説)

 

 

目次

 

虚数とは

どんな数でも二乗すると必ずプラスになる。プラスの数の二乗はプラス×プラスでプラスになるし、マイナスの数の二条はマイナス×マイナスでプラスになるからだ。

$$(+1)×(+1)=+1$$

$$(-1)×(-1)=+1$$

だから二乗してマイナスになる数なんて存在しない。それを「存在することにしよう!」と仮定して生まれたのが虚数\(i\)だ。

$$i^2=-1$$

虚数は\(i\)を使って表す。二乗してマイナスになる数字は想像上でしか存在しない。そのため英語では虚数のことをimaginary numberと言い、その頭文字を使って表している。

多くの人が高校生のときに「なぜこのような存在しない数について学ばなければいけないのか?」ということを疑問に感じたと思う。学問的興味に駆られ、このような有り得ない数について検証したくなる気持ちは分からなくもない。だが、ほぼ全ての人が高校に進学するようになった世で、高校生全員を対象に虚数を教えることは妥当だろうか。

数学の道に進むものはごく僅かだろう。それにこのような存在しない数など、日常生活で使うこともあるまい。なぜ文部科学省は、虚数を学ぶことを全ての高校生に課しているのか。

 

「虚数は存在しない」という議論の不適当さ

上では「虚数は存在しない」という前提で話を進めた。「虚数は存在しない」という考えに至る理由の裏には、「1や2などの実数は存在する」とう無意識下の理解がある。だがよくよく考えてみると、虚数だけでなくこのような1や2という数でさえ、存在は不確かなのだと分かる。

こんなことを書くと「何を言っているんだ」と返ってきそうだ。「1や2が存在するのは当たり前だろう」と。

ここで少し考えてみる。例えば、\(\frac{1}{3}\)という数は存在するのだろうか?即答で「存在する」と返ってきそうな気がする。ケーキを3人で分ける時、まさに\(\frac{1}{3}\)という数字が現れるだろうと。

だが、\(\frac{1}{3}\)は\(0.3333…\)と無限に続く数だ。無限に続くものなんてこの世に存在するはずがない。ケーキを3人で分けられるのは、均等に\(0.3333…\)に分けているからではなく、実際は\(0.3333…334\)のようにどこかで数字が終わっており、不平等な切り分けになっているからだ。\(\frac{1}{3}\)なんて数は存在するのだろうか?

もう少し疑問を大きくしてみる。1や2という数は存在するのだろうか?ということまで考えてみる。例えばリンゴの数を数える時、リンゴが1個、2個…というように人は数える。この状況で1や2という数字はどこにあるのだろうか?別に1や2という数字がそこら辺を闊歩している訳ではない。あくまで1や2という数字は人の頭の中にしか存在しないのだ。リンゴがいくつかあるという状況を的確に表すために、数字というものを創造してそれを頭の中で唱えているに過ぎない。

要するに「数字は現実を表すために人が創造したもの」ということだ。それは虚数だけでなく、1や2という数字についても同じことが言える。だから虚数だけを取り上げ「虚数は存在するだろうか?」と議論すること自体が不適当なのだ。数字なんてものはみな等しく存在しない。

(この議論は思想強めなのであくまで一意見として捉えてほしい)

 

 

虚数は現実を表しているか

という訳で「なぜ虚数という存在しない数について学ばなければならないのか?」に対する答えは、「そもそも虚数だけでなく、全ての数字が存在しません」ということだ。

当然これでは回答になっていない。なんなら「全ての数字が存在しません?じゃあ数学を学ぶ必要がない!」と言われそうだ(上の文章は捻くれ切って書いたものなので多めに見てほしいが…)。

重要なのは「虚数が存在するか?」ではなく「虚数は現実を表しているか?」だ。現実を表していないものを学ぶ必要はない(必要ないわけではないがここではそういうことにする)。

リンゴの数を数えるときは1個、2個…と数えれば良いが、このときに虚数を使うことはない。リンゴが1\(i\)個、2\(i\)個…と言われても意味が分からない。

こう考えると、「実数は現実を表す数字」であり、「虚数は現実を表していない数字」に思える。では虚数を学ぶ意味などないだろう、と考えたくなるが、この考えのが間違っているのは、「虚数は現実を表していない数字」としているところが間違いなのだ。

日常の中で虚数を使うことはほぼないので上記のように思えるが、例えば量子力学の世界では虚数を使って現象を記述している。例はいくつもあるのだが、今回はシュレディンガー方程式について触れよう。

 

虚数を用いる例 -シュレディンガー方程式-

虚数を使用するものの例として、量子力学の基本方程式であるシュレディンガー方程式が挙げられる。

$$i\hbar\frac{∂ψ(\boldsymbol{r},t)}{∂t}=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2ψ(\boldsymbol{r},t)$$

見て分かる通り、式の中に思いっきり虚数が入っている。式の美しさから感じ取れると思うが、便利な演算子として虚数を使用している訳ではないことも分かる。

この式を解いて波動関数\(ψ\)を求めることで、量子の存在確率が分かる。量子は、粒子のように常にどこかしらに位置が決まっているのではなく、そこにあるかもしれないという確率の状態で存在している。観測したときに初めて位置が確定するのだ(このことを波動関数が収縮すると言ったりする)。

このように量子が確率の"雲"のような状態で存在しているおかげで、マクロな世界では起こり得ない現象が発生する。その代表例がトンネル効果だ。

 

トンネル効果とその応用

トンネル効果は量子が壁を通り抜けて出現することだ。現実のようなマクロな世界ではボールを壁の上に向かって投げ上げなければならないが、ミクロな世界ではその必要はない。量子の存在確率が勝手に壁の向こうに染み出して、ある確率で壁の向こうに出現してくれる。

この現象は、現実の世界でダイオードやフラッシュメモリなんかに応用されている。

フラッシュメモリの場合、データ書き込み時は電圧を印加することでトンネル効果によって絶縁体の壁を電子に乗り越えさせ、フローティングゲートに電子を溜める。電圧の印加を辞めれば、フローティングゲートと半導体部分が絶縁体で遮られフローティングゲートが電気的に孤立するので、データが保存されるという仕組みだ。

このように、虚数を用いて現象を記述する量子力学という学問は、現実の技術にばっちり応用されているというわけだ。

 

まとめ

・「虚数は存在するか?」という議論は不適当で、「虚数は現実を表しているか?」を考えるべき

・虚数を用いて現実を記述する例はいくつもある。例えば量子力学におけるシュレディンガー方程式など

・量子力学は現実の技術に応用されている。例えばトンネル効果を利用したフラッシュメモリなど

トンネル効果のような現象は日常的な感覚からすると理解し難いが、虚数を含む基本方程式によって記述される量子力学の範疇であると考えると、理解できないのも仕方ないと思えてくる。

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