宇宙系 物理

宇宙の年齢を求めるまでの経緯

2020年12月16日

大学時代は物理を専攻していた。熱心ではなかったかが高校時代から物理にはそこそこ前向きに取り組み、大学でも漠然と宇宙について学ぶものだと考えていた

宇宙系の研究室には物理エリートが集うので、頭の出来も努力もイマイチだった自分は、宇宙系ではなく物性系に進まざるを得なくなるわけだが…。

大学時代の講義でハッブル定数について学んだとき、教授が「ハッブルだけが脚光を浴びているが、本当はそうじゃないんだ」と語っていた。今回はその経緯、宇宙の年齢を求めるまでについて書こうと思う。

動画(ゆっくり解説)

 

目次

 

ビッグバン理論とハッブル

宇宙は爆発によって、ある1点から広がってできた。いわゆるビッグバン理論と呼ばれるものだ。

普遍的な事実として一般人にも浸透しているが、よくよく考えてみると、爆発によってこの宇宙ができたというのは荒唐無稽ではないだろうか。このビッグバン理論が提唱された当初も多くの物理学者がそう考え、反応はあまり良いものではなかったそうだ。

それを覆したのがハッブルだ。ハッブルは宇宙が膨張していることを観測し、ビッグバン理論を補強した。

ハッブルはハッブル宇宙望遠鏡に名を残すとおり、知名度の高い物理学者だ。銀河の後退速度を示すハッブル定数にもその名を残している通り、宇宙膨張とビッグバン理論確立の立役者として扱われている。

ただ経緯を紐解くと、ハッブルだけの功績ではないことが見えてくる。

 

相対性理論

1905年にアインシュタインがある理論を提唱した。かの有名な特殊相対性理論だ。特殊相対性理論は時空間についての理論で、「光速は不変である」という観測事実から、「動くものの時間は遅れる」といった日常的な感覚からは逸脱した内容を導き出した。

その10年後、アインシュタインは特殊相対性理論をさらに発展させた一般相対性理論を提唱する。一般相対性理論は、時空間に加え重力を扱った理論だ。アインシュタインはその中で、「アインシュタイン方程式」というものを導き出している。物質分布と時空間を結びつけた方程式だ。

$$R^{μν}-\frac{1}{2}g^{μν}R-λg^{μν}=κT^{μν}$$

左辺が時空の曲率、右辺が物質分布を表している。各文字や式の詳細な中身は今回どうでも良い。とにかく質量をもった物体と時空間がこの式で結びついているということだ。

このアインシュタイン方程式の解を考えることで、宇宙について記述することができる。代表的なものがシュヴァルツシルト解だ。

 

シュヴァルツシルト解

シュヴァルツシルトは、球形物体が静止しているときの周りの重力場を、アインシュタイン方程式から求めた。その時の解が以下であり、シュヴァルツシルトが発見したことから、そのままシュヴァルツシルト解と呼ばれている。

$$ds^2=-(1-\frac{4a}{r})(dx)^2+(1-\frac{4a}{r})^{-1}(dr)^2+r^2((dθ)^2+\sin^2θ(dφ)^2)$$

$$4a=\frac{2GM}{c^2}$$

ここで出てくる\(4a\)をシュヴァルツシルト半径と呼ぶ。

ほぼ全ての物体では、実際の半径よりもこのシュヴァルツシルト半径の方が小さい。例えば地球の半径は約6300kmだが、シュヴァルツシルト半径は9mm程度に過ぎない。

ではこのシュヴァルツシルト半径に物理的な意味はあるのか?例えばものすごく高密度な物体について考えてみる。物体の実半径よりも、シュヴァルツシルト半径\(4a=\frac{2GM}{c^2}\)がものすごく大きな場合だ。

このとき、物体の中心から外に向かって光線を照射する場合の、光線の位置について考える。詳細な計算過程は省くが、光線の位置を時間\(t\)で表し、\(t→∞\)としてやると、光線の位置はシュヴァルツシルト半径に一致する。

この計算結果が意味するのは「時間を無限にかけて移動してもシュヴァルツシルト半径の位置までしか辿り着けない」ということだ。つまり、シュヴァルツシルト半径の外には永遠に出られない。この世で一番速い光でさえも。

このような物体をブラックホールと呼ぶ。シュヴァルツシルト解はブラックホールを表した解ということだ。

このシュヴァルツシルト解の例のように、ある状況を仮定してアインシュタイン方程式を解くことで、宇宙についての解が得られる。

 

FLRW解

アインシュタイン方程式の解はシュヴァルツシルト解だけではなく、他にも様々存在する。そのうち1つにフリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー解(FLRW解)がある。

$$ds^2=c^2dt^2+a(t)^2(\frac{dr^2}{1-kr^2}+r^2((dθ)^2+\sin^2θ(dφ)^2))$$

シュヴァルツシルト解は球形物体について考えたときの解だが、FLRW解は等方的な空間、つまり宇宙について考えたときの解だ(宇宙は局所的に見ると銀河等が存在するが、全体的に見てやれば特異な濃淡は無い、等方であると仮定している)。

この式中に出てくる\(a(t)\)をスケール因子と呼ぶ。名前の通り、宇宙の大きさを表す量であり、何より時間変化する量でもある。

アインシュタイン自身は宇宙の大きさは不変だと考えていたようだが、アインシュタイン方程式の解を宇宙規模で考えると、宇宙の大きさは一定ではないという解が出てくるのだ。この解はフリードマンやルメートルらによって1920年代に発見され、膨張宇宙を表すモデルとして提唱された。

しかし発表した論文誌がマイナーなもので、注目されなかったようだ。また、当時は宇宙が定常なものだとアインシュタイン含め多くの物理学者が考えていたので、この解は「アインシュタイン方程式を満たしはするが、我々の宇宙で満たすモデルでは無い」と考えられたようだ。

そんな訳で多くの物理学者から否定されてしまう宇宙膨張モデルだが、それをハッブルの観測が覆すことになる。

 

ハッブルの観測

1929年にハッブルが「A relation between distance and radial velocity among extra-galactic nebulae」という論文を発表する。その論文中で出てくる関係が、以下の図だ。

引用元:E.Hunbble Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 15(1929)168

縦軸は天体が地球から遠ざかる速度、横軸は地球からの距離を表している。図中の線から分かる通り、両者は比例関係にある。

「いやいや、比例とは言っているが、けっこうガバガバじゃないか?」とツッコみたくはなるが、ハッブルは結果ありきでこの線を引いたのだろう。

なぜならこの論文の後半で、ドジッター解というアインシュタイン方程式の解との関連について触れているからだ(ドジッター解を変形してやることで、この観測結果のような速度と距離の比例関係が、当時既に得られていた)。

この観測結果は宇宙が膨張していると考えれば簡単に説明がついた。よってこの観測以降、宇宙膨張論、ビッグバン理論が支持されていくことになる。

 

宇宙の年齢

宇宙が膨張しているということは、その膨張速度を調べれば、広大な宇宙がまだ1点に過ぎなかった時までの時間、すなわち宇宙の年齢が分かる。

そうして求められたのが138億年という数字だ。

実際のところ、宇宙の膨張は加速と減速を繰り返しているおり、単純に計算することはできないのだが、おおよそこのような数字になる。

 

最後に

ハッブルばかりが取り上げられるが、歴史を洗ってみると、アインシュタインやフリードマン、ルメートル、ドジッターらがかなり貢献していることが分かる。

近年、ハッブルの法則をハッブル・ルメートルの法則と呼称する動きがあるようだから、ルメートルもこれで報われるだろうか(フリードマン他は…?)。

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