知らないことを知るのが楽しいのだが、一番楽しいのはフィクションのような現実に出くわす時だと思う。今回はそんな現実の1つである、サッカーの試合、「カリビアンカップ1994予選 バルバドス対グレナダ」について書こうと思う。
目次
カリビアンカップ1994
カリビアンカップは、カリブ海諸国のナショナルチームが出場するサッカーの国際大会で、馴染みのある出場国はキューバ、ジャマイカなど。
1994年はトリニダード・トバゴで開催された。今回話題になるバルバドスとグレナダは、カリブ海周辺でもかなり東側に位置する国だ。
大会は予選と本大会に分けて行われた。1993年の優勝国であるマルティニークと開催国であるトリニダード・トバゴは本大会への直接出場が決まっており、この2ヶ国の他に、6つの予選グループの各1位、計6ヶ国を加えた、合計8ヶ国で本大会を行うことになっていた。
そしてこの6つの予選グループのうち、グループ1においてサッカー史上最も奇怪な試合が行われることになる。
試合背景
グループ1はバルバドス、グレナダ、プエルトリコの3ヶ国で争われた。3チームによる総当り戦で、延長戦とPK戦まで行い必ず勝敗を決めるという方式で行われた。さらに延長線はゴールデンゴール方式で行い、ゴールデンゴールは2点に換算されるというルールで行われた。
※ゴールデンゴール方式・・・延長戦でどちらかのチームが得点した時点で試合を打ち切り、得点を入れたチームを勝者にする方式
1試合目、バルバドス対プエルトリコは0-1でプエルトリコが勝利し、2試合目のグレナダ対プエルトリコは2-0でグレナダが勝利。3試合目を残した時点で、各チームの得失点は以下のようになっていた。
順位 | 国 | 試合数 | 勝-敗 | 得失点 | 勝ち点 |
1 | グレナダ | 1 | 1-0 | +2 | 3 |
2 | プエルトリコ | 2 | 1-1 | -1 | 3 |
3 | バルバドス | 1 | 0-1 | -1 | 0 |
この時点で1敗のバルバドスが本大会に出場するには、グレナダ戦で勝利し、勝ち点3を得ることが絶対条件だった。それに加え、1点差での勝利では【グレナダの得失点差+1>バルバドスの得失点差0】となり、得失点差によってグレナダが本大会出場となってしまうため、バルバドスは2点差以上での勝利が必要な状況だった。
バルバドス対グレナダ
予選グループ1の最終戦、バルバドス対グレナダは1994年の1月27日に行われた。
試合はバルバドス優勢で進んだ。先制、追加点を決め、本大会に出場するための条件である2点差勝利に近付く。しかしグレナダ代表が1点を返し、試合終了間際でスコアが2-1となってしまう。2点差勝利が必須のバルバドスは再び攻勢に出るが、ここであることに気付く。
このまま得点することができなければ、1点差での勝利となりグレナダが本大会に出場する。しかし延長線ではゴールデンゴールが2点に換算されるため、シュートを決めることさえできれば、その時点で2点差勝利となり、バルバドスが本大会に出場できる。
結局バルバドスは残り数分でもう1点を決めることよりも、延長線に持ち込みゴールデンゴールを狙うことを選択した。わざとオウンゴールし、スコアを2-2としたのである。
このオウンゴールを見たグレナダ代表もすぐに、バルバドスが延長線でのゴールデンゴールを狙っていることに気付いた。それと同時に、1点差で試合を終わらせれば、勝ち負け関係なくグレナダが本大会に出場できることにも気付いた。そこでグレナダはオウンゴールすることでスコアを2-3とし、1点差で試合を終わらせようとした。
当然、延長線に持ち込みたいバルバドスはそれを阻止しようとする。オウンゴールさせないため、敵陣であるグレナダのゴールを守り始めたのだ。しかし、その隙を突かれ自陣にゴールを決められると敗北してしまう。そのため自陣のゴールも守る必要がある。
こうして、2-2というスコアを守りたいバルバドスと、勝ち負け関係なく1点入れて試合を終わらせたいグレナダの思惑が重なった結果、バルバドスは両者のゴールを守り、グレナダは両者のゴールに向かって攻める、という奇怪な試合展開となってしまった。
試合結果
そんな奇怪な光景となった試合だが、グレナダは自陣、敵陣、どちらのゴールにもボールを入れることはできず、試合は延長戦に突入した。
延長戦は通常通りの試合展開に戻り、結局バルバドスがゴールデンゴールを決め4-2で勝利。
最終的なグループ1の順位は以下の通りである。グレナダ戦で目論見通りことを運んだバルバドスが本大会出場した。
順位 | 国 | 試合数 | 勝-敗 | 得失点 | 勝ち点 |
1 | バルバドス | 2 | 1-1 | +1 | 3 |
2 | グレナダ | 2 | 1-1 | 0 | 3 |
3 | プエルトリコ | 2 | 1-1 | -1 | 3 |
まとめ
- バルバドスはグレナダ戦で2点差以上の勝利が必要だった
- バルバドスはゴールデンゴールによる2点差勝利を得るため、延長戦に持ち込もうとした
- グレナダは1点差で試合を終わらせるため、自陣敵陣問わずゴールを入れようとした
- その結果、バルバドスは両者のゴールを守り、グレナダは両者のゴールに向かって攻める、という奇怪な試合展開となった
ちなみに(ギャグ)漫画のような展開で本大会に出場したバルバドスだが、本大会では健闘むなしく予選敗退となった。そこまでことは上手く運ばなかったようだ。